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宇都宮地方裁判所 昭和25年(行)22号 判決

原告 金森俊男

被告 栃木県知事

一、主  文

被告が別紙目録記載の土地につき農地調整法施行令第二条第一項に基き昭和二十五年三月二十三日附を以て為した不許可処分は之を取消す。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項と同旨並に訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として別紙目録記載の土地及湯津上村大字佐良土字竹の皮千二百二十三番の六田六反五畝十九歩の内四反歩、同村大字蛭畑字貝坂八百八十九番の五田八反十二歩の内十二歩は元訴外金森耕太の所有地であつたが、同人の三男である原告が昭和十四年に分家したので昭和二十年十月一日同訴外人より贈与を受けたものである。ところで当時は農地の譲渡について知事の許可を受ける必要もなく、又之等の土地は登記簿上同訴外人の父次郎吉の所有名義になつて居り、同人の住所の表示にも誤りがあつたところ、その変更登記手続をしない内に同人は死亡してしまつたので之を原告名義に移転登記をするには右次郎吉の住所の変更、耕太の相続登記等を経なければならなかつた。其処で原告はこれ等一切の登記手続を黒羽町の司法書士に依頼したところその手続には相当の期間が要るというのでとりあえず前掲贈与の証書について昭和二十一年十月九日黒羽登記所において確定日附を受けた次第である。しかるところ村農地委員会より右贈与には農地調整法施行令第二条第一項に依る知事の許可が必要である旨の指示を受けたので、原告は昭和二十四年十一月二十四日附を以て被告知事に対しその申請をした。ところが被告知事は昭和二十五年三月二十三日附を以て前掲竹の皮及び貝坂所在の分については許可したが別紙目録記載の分については不許可の処分をし原告は同年四月八日その通知を受けた。しかしながら前述のとおり本件繋争土地の贈与は昭和二十年十月一日に行はれたものであるからそれ以後である昭和二十一年二月一日に施行された昭和二十年法律第六十四号農地調整法第五条の適用はない。従つて知事の許可を受けることは必要でない。仮に右贈与が確定日附を受けた昭和二十一年十月九日に行はれたものとするも右贈与契約に依り当事者間においては所有権の移転が行はれその引渡は完了しているのであるから農地調整法附則(昭和二十一年法律第四十二号)第二項に依り知事の許可は必要としない。仮に又本件贈与について知事の許可が必要であるとするも農地の移動について行う知事の許可処分は法規裁量行為であるから前述の贈与に基く所有権の移転をその一部について許可しながら他の部分につき不許可処分にすることはその裁量を誤つた違法処分であるばかりでなく、右不許可処分は知事を代理する権限のない農地部長に依て為された無権限の行為であるから此の点においても違法である。依て之が取消を求める為本訴請求に及んだと陳述し、被告の主張に対し別紙目録記載の土地にはそれぞれ小作人の居ることは認めるがその余の主張は理由がないと陳述した。(証拠省略)

被告指定代表者は請求棄却の判決を求め本案前の抗弁として、仮に原告主張のように本件土地の贈与契約には知事の許可が必要でないとするならばその登記を為すについて知事の許可は必要でないのみならず、原告自ら不必要な申請を為しているのであるから原告は訴を以て本件不許可処分の取消を求める利益が無いと述べ、本案についての答弁として本件繋争土地を含む原告主張の土地が訴外金森耕太の所有であつて原告は同訴外人の三男であること、原告が昭和二十一年十月九日本件土地等の贈与証書につき黒羽登記所において確定日附を受けたこと並びに右贈与には農地調整法施行令第二条第一項に依り知事の許可が必要であり、原告がその主張の日に被告に対し許可の申請をし被告が昭和二十五年三月二十三日附を以て本件土地については不許可其の他の土地については許可の処分をしたことは認めるが、右処分の通知が同年四月八日原告に送達されたという点並びに右処分は知事を代理する権限のない農地部長が為したという点は何れも否認し、その他の事実は不知である。本件繋争農地の所有権の移動については知事の許可を必要とするところ、原告の申請に対し被告がその一部を許可し一部を不許可としたのは原告主張のように昭和二十一年十月九日黒羽登記所に於て受けた確定日附ある贈与証書に基きその贈与を認めて為したものではない。即ち農地調整法第四条第二項各号に該当しない農地についてのみ許可し小作地である別紙目録記載の土地は同条項第一号に該当する為不許可にしたのであるから何等違法の点はない。確定日附は証書作載につき証拠力を持つに過ぎないのであるから訴外金森耕太と原告との間に昭和二十年十月一日に贈与が行はれたことは証書のみに依ては証明せられない。しかも右証書の確定日附は昭和二十一年十月九日であるから右贈与契約を有効ならしめるには昭和二十年法律第六十四号農地調整法第五条の適用を受け地方長官の許可を受けなければ無効であるから右確定日附ある贈与証書はその日附の日に当事者間に贈与の企図があつたことを意味するに過ぎないのであつて、贈与が為されたということはできない。仮に昭和二十年十月一日に贈与が行はれたとしてもそれには昭和十九年勅令第一五一号臨時農地等管理令第七条の二に依り地方長官の許可を受けなければならないからその許可がない限り贈与が為されたということはできない。又農地の移動についての許可不許可処分は栃木県庁処務規程若くは庁内の諒解事項として農地部長の専決事項とされているものであるから同部長に代決権がある。従て以上何れの点から見ても本件不許可処分には違法の点はないと陳述した。(証拠省略)

三、理  由

先づ原告が本訴において被告の為した不許可処分の取消を求める利益があるか否かの点について考えて見るに、本件繋争土地について為された贈与契約には知事の許可は不必要であると解釈されることは後に説明するとおりである。それならば本件不許可処分の存在することは右契約に基く所有権の移転登記を為すにつき何等の妨げとはならないもののように思はれるけれども、既に行政処分が存在し被告が許可の必要性を主張して自らその取消を為すことを肯じない限り訴を以て之が取消を求める必要があると謂はなければならない。而して右処分が原告自らの不必要な申請行為に基いて為されたとしても起訴自体は被告の処分に依て誘発せられたのであるから原告側の過失は訴訟費用の負担についても斟酌せられるに止まりそれが為に訴の利益なしとせられるものではない。

仍て本案について判断するに、別紙目録記載の土地及湯津上村大字佐良土字竹の皮千二百二十三番地の六田六反五畝十九歩の内四反歩、同村大字蛭畑字貝坂八百八十九番の五田八反十二歩の内十二歩が訴外金森耕太の所有地であつて同人の三男である原告より昭和二十四年十一月二十四日附を以て被告知事に対し贈与に基く所有権移転の許可申請が為され被告知事が昭和二十五年三月二十三日附を以て右申請に対し別紙目録記載の土地については不許可、其の他の土地については許可の処分をしたことは本件当事者間に争のない事実である。而して証人栗田恒造、同金森耕太、原告本人の各供述公証部分の成立について争がなく栗田証人の供述に依て其の余の部分の成立を認める甲第一号証の一並びに成立に争のない甲第五号証を綜合すると訴外金森耕太は昭和二十年九月二十七日父次郎吉の意思に基き分家した三男である原告の将来の為同人に対し所有土地の四分の一に該る前掲各土地を贈与することとし、同年十月一日附の契約書を作成して之が贈与を為したものであつて、当時直ちに所有権移転登記手続を為す筈のところ住所変更相続登記等の為に直ちにその手続を為し得ない事情があつたので、昭和二十一年十月九日に至つて取り敢えず黒羽登記所に於て右証書に確定日附を受けたものであることが認められ、他に右認定を左右し得る証拠はない。而して農地の所有権の移転について地方長官の許可が効力要件とせられたのは農地調整法の第一次改正(同法第五条昭和二十一年二月一日施行)以後のことであつて、それ以前は臨時農地等管理令第七条の二の規定に依り農地の所有権等の譲渡契約を締結せんとする当事者は地方長官の許可を受くべきものとされていたが、それは取締規定であつて右の許可を受くることなくして為された行為であつても私法上の効力には消長が無いものとされていた。而して前掲農地調整法第一次改正の際には同法第六条第三号に依り農地を耕作の目的に供する為所有権を取得する場合は同法第五条の適用が無いものとされたが、第二次改正(昭和二十一年十二月二十二日施行)法第五条に依り右例外規定は削除となつたので同法附則第二項に依り改正前の第六条第三号の規定に依り同法第五条の規定に依る許可を受けないでした農地に関する契約で当該契約にかゝる権利の設定又は移転に関する登記及引渡の何れもが完了していないものについても尚第四条の規定に依る許可を必要とする旨を定めたのである。してみれば右附則の適用がある契約は地方長官の許可が効力要件とせられるに至つた第一次改正以後に為された契約を指すのであつて、それ以前において既に有効に成立している契約迄をも包含する趣旨でないことは自ら明かである。それならば本件繋争土地に関する贈与契約は昭和二十年十月一日に成立したものであることは前認定のとおりであるから、この契約については(前掲臨時農地等管理令に基く罰則の適用があることは格別として)登記及その引渡の何れもが完了していなくとも同附則の適用を見るべき筋合ではなく、従て地方長官の許可を受ける必要は全くないわけである。しかるにその必要ありとの前提の下に不許可とした被告の処分は違法であるから取消を免れない。

仍て原告の本訴請求は他の論点について判断を俟つまでもなく正当として之を認容するけれども、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

(目録省略)

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